2026.9.1
お知らせ

Research & Interview -かかりつけ医への肥満症意識調査-「自己責任」から「適切な医療」へ ―かかりつけ医における肥満症診療の実態調査から

肥満症は、肥満に伴う健康障害があり「医学的に減量が必要とされる疾患」です。様々な疾患が連鎖する「メタボリックドミノ」の最上流に位置し、これらの健康障害をもつ患者さんの予後や生活の質に多大な影響を及ぼすにもかかわらず、生活習慣や自己管理の問題として捉えられることも少なくありません。

実際、かかりつけ医など一次診療の現場において、「治療としての減量」の重要性は十分に浸透しているとはいえない現状があります。

今回は、全国のかかりつけ医(肥満症非専門医)を対象に実施した「肥満症診療の実態に関する意識調査」のデータをもとに、日本肥満症予防協会 理事長の宮崎 滋 先生に、肥満症を取り巻く課題についてお話をうかがいました。

「肥満・肥満症」に対する認識の実態

協和企画:本日はお時間をいただきありがとうございます。今回は、我々が独自に行った「肥満症診療の実態に関する意識調査」の結果を中心に、肥満症診療の現状について、宮崎先生にご見解をうかがいたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

宮崎 滋 先生(以下、宮崎先生):よろしくお願いします。

協和企画:調査対象は一次診療を担うかかりつけ医の先生方110名で、診療科の内訳は内科系が75.5%、産婦人科が13.6%、整形外科が10.9%です。さらに「最近1か月以内に、肥満症の診断に必要な11疾患 1)の患者さんを50名以上診療していること」、かつ「日本内分泌学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本肥満学会のいずれの会員でもないこと」を条件としています(調査概要参照)。つまり、肥満症の専門医ではない先生方のリアルな現状を反映したデータと言えます。
まず、最初の質問として「肥満と肥満症の違いについての認識」をうかがいました。「診断基準や定義など明確に理解している」と答えた先生が32.7%、「診断基準などは言えないが、違いがあることは認識している」が45.5%、「知らない」が21.8%という結果になりました(図1)。何らかの違いがあるという認識自体は、約8割の先生がもっていらっしゃるということになります。
ただし、「明確に理解している」と回答した先生でも、具体的な定義を問う設問においては不正答項目を選んでいるケースも見受けられました。この現状について、専門医の立場からどのようにご覧になりますか。

宮崎先生:非常に興味深いデータですね。今回対象となっているのは、4つの専門学会に所属していない非専門医であり、地域で広く一般診療をされている先生方ということですね。
まず、以前と比べると格段に理解が進んでいると言えます。一方で、診断基準の正確な項目となると、やはり曖昧な部分が多い。ただ、地域医療の最前線で診療をされている先生方が専門外である肥満症のガイドラインを熟知していないのは当然です。「診断基準が存在すること」は知っていても、一つひとつの項目を完璧に頭に入れているわけではない。これは想定内ですし、むしろそれで十分だとも思います。「この患者さんはただの肥満か、肥満症か」と疑問に思ったときに、その場で調べて解決できる意識と環境さえあれば、診断基準を丸暗記していなくても実務上は問題ないと言えるでしょう。

<図1:肥満と肥満症の違いについての認識>

体重管理とBMI測定

協和企画:次に、肥満症の管理において非常に重要となる「BMIの測定」についてうかがいました。患者さんのBMIを定期的に測定しているかを尋ねたところ、「測定しない」、あるいは「測定するのは初診時のみ」という回答が合わせて40.9%でした(図2)。定期的な測定を行っていないかかりつけ医が約4割ということになります。

宮崎先生:肥満の評価はBMIで行いますが、診察のたびに毎回身長と体重の両方を測ってBMIを計算する必要はありません。最初に一度、身長と体重の測定を行えば、その後は体重測定だけで十分です。「測定しない」と回答した先生も、患者さんの体重の推移をきちんとチェックしているのであれば、臨床的には問題ありません。必要に応じて後からBMIも計算できますからね。
何よりも「定期的に体重を測っておくこと」がかかりつけ医においても大切なのです。

<図2:定期的にBMIを測定している疾患>

メタボリックドミノを阻止する
―「減量は治療である」という本質

協和企画:「BMIを測定するか」ではなく「体重を測定しているか」という質問であれば、違う結果になったかもしれませんね。 続いて、「肥満症が早期介入によって合併症のリスクを回避できることを知っているか」という設問では、実に85.5%の先生が「知っている」と回答されました。


宮崎先生:体重を減らすことが患者さんにとって非常に有益であることは、専門医でなくても多くの先生が理解されているようですね。ここが肥満症診療において一番のコアとなる部分です。減量があらゆる合併症リスクの回避に直結することは、現場の先生方もよくご存じだということです。
例えば、整形外科の先生のところには、膝が痛い、腰が痛いという患者さんが治療やリハビリを求めてたくさん来院しますよね。でも、いくら電気刺激を行ったり、貼付剤を貼ったり、痛み止めを処方したりしても、なかなかよくならない。しかし、体重を減らせば、関節にかかる物理的な負担が減るので、それだけで改善が望めます。糖尿病や高血圧も同様に、体重を減らすことで改善します。

協和企画:一方で、早期介入による合併症リスク回避について知っているにもかかわらず、実際の「肥満症の診断に対する積極性」を尋ねると、「積極的・やや積極的」が約55%、「あまり積極的ではない・積極的ではない」が約45%と、ほぼ半分ずつに分かれています(図3)。このギャップについてはどう思われますか。

宮崎先生:そこがまさに、現在の医療現場における大きな課題です。「肥満症」と聞くと、多くの先生方は単に「太った人」と捉え、「痩せさせるための治療」と考えてしまいがちです。しかし、肥満症治療の目的は、痩せること自体ではなく「体重を減らすことで、背景にある合併症を改善すること」です。この本質が、まだ十分に浸透していないのだと思います。
診断基準にある11疾患は、減量によって症状が著しく軽快するとされています。これが「メタボリックドミノ」の考え方です。最上流にある「肥満」を放置して、下流で次々とあふれ出てくる高血圧や糖尿病などの症状に対して個別に薬を使っても、根本的な解決にはなりません。でも、減量によってこれら疾患にかかる薬を減らせる可能性がある。これこそが患者さんにとっての最大の利益です。
肥満症治療において「3%の減量」が盛んに提唱されるようになったのは、体重をわずか3%減らすだけで、診断基準の11疾患にかかわる血糖値、血圧、脂質、尿酸値、肝機能といった主要なデータが明らかに改善する 2)ことがわかったからです。また、診断基準の11疾患以外に、逆流性食道炎(胃食道逆流症)や気管支喘息、胆石なども肥満が原因ではないが、減量によって症状が改善することがわかっています 1)

<図3:肥満症の診断に対する積極性、積極的でない理由>

疾患ごとの具体的な「減量目標」と、
若年層への介入

協和企画:「改善のために何%の減量が必要か」という設問があってもよかったかもしれませんね。

宮崎先生:そうですね。我々肥満症専門医の課題は、「どれくらい体重を減らせば、どの疾患が改善するのか」という具体的な目安を一般の先生方に知っていただくことです。中性脂肪は2.5%以上、高血圧や肝機能であれば5%以上減らすと改善がみられますが、睡眠時無呼吸症候群ともなると、明確に改善させるには約10-15% 3)は減らさなければなりません。このように、ご自身が診ている専門疾患をより改善させるための強力な手段として、「肥満症」という診断をつけ、減量というアプローチを加味してほしいのです。そうすれば、患者さんのメリットは倍増しますし、先生方ももっと積極的に診断しようと思ってもらえると考えています。

協和企画:自身の専門領域の疾患と肥満が結びついていれば、肥満症として積極的介入ができるということですね。

宮崎先生:その通りです。「体重を減らせば、その専門疾患がよくなる」という視点を持つことが大切です。
日々の健診において、私がいま一番心配しているのは若い男性です。健診でいくつもの異常値が出ているのに、本人は自覚症状がないために、治療を提案しても「元気だから大丈夫です」と言い張ります。しかし、若い人が急激に太ってしまうと、合併する病気が1つや2つではなく、一挙に6つも現れることがあります。こうした肥満症の患者さんに対して、糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症……と症状ごとに薬を処方していたら、あっという間に薬漬けになってしまいます。
そうではなく、「まず何%の体重を減らす」という指導をすること。これが「メタボリックドミノ」の最上流を食い止めることであり、本来あるべき医療の姿だと考えます。
もっとも、その減量自体が現実には非常に難しいため、みなさん苦労されているわけですが。

「自己責任論」の壁とスティグマ

協和企画:調査の中で、肥満症の診断や治療に積極的になれない具体的な理由をさらに掘り下げたところ、「自身の専門ではないから」という回答のほかに、「患者の自己責任だと思っているから」という回答が50人中16人、32%もありました(図3)。この「自己責任」という考え方については、どのようにお感じになりますか。

宮崎先生:3割以上の先生が肥満症を「自己責任」と考えていることについては、正直なところ、かなり多い印象です。
我々日本肥満症予防協会および日本肥満学会では、こうした「太っているのは本人の自己責任だ」「怠慢だ」という見方を、患者さんを不当に傷つける「スティグマ(偏見)」として捉え、正していかなければならないと強く訴えています。肥満は個人の意志の強さだけで解決できるような単純な問題ではなく、環境要因や遺伝的素因、代謝の異常などが複雑に絡み合った「疾患」です。
ですから、かかりつけ医の先生方には、「毎日の生活で、太っていることで困ることはないですか?」「この病気は肥満が大きく関係しているので、一緒に体重を減らす取り組みをしてみませんか?」と、やさしく、かつ積極的に声をかけていく診療姿勢をとっていただきたいです。自己責任論で片付けてしまう医療のあり方は望ましくありません。

治療指導の限界と、医療への適切なアクセスに向けて

協和企画:具体的な治療内容について、本調査によると「食事や運動を気遣うように伝える」先生は多いものの、具体的な指導や「薬物療法の提案」となると割合が大きく減っています。

宮崎先生:専門外の小規模クリニックで、時間をかけた栄養指導や運動指導を日常的に行うのは、現在の医療制度や人員体制の面から非常にハードルが高いのが現実です。
また、いま世間で話題の「GLP-1受容体作動薬」などの新しい治療薬も、保険適用にはなりましたが、適正使用のために厳しいガイドラインによって処方できる施設が限定されており、紹介や診診連携、病診連携における解消すべきハードルもまだまだ残っている状況ですね。

協和企画:制度の厳しさが、適応外の自由診療を横行させる皮肉な現状もありますね。

宮崎先生:はい、それが非常に危惧している点です。保険診療のハードルが高い結果、肥満ではなく減量治療を行うべきではない方々がオンラインの自由診療を通じて「GLP-1ダイエット」として容易に薬を買い求めるという危険な事態が起きています。
GLP-1製剤は魔法の脂肪燃焼薬ではなく、食欲を強力に抑えて絶食状態にする薬です。肥満症の人が使えば脂肪が減りますが、普通体型、あるいは痩せ型の人が使うと身体を支える「筋肉」までそぎ落としてしまいます。結果的に若くしてサルコペニア(筋肉減少症)を引き起こし、将来の寝たきりや骨粗鬆症のリスクを爆発的に高める恐ろしさを、社会全体が認識しなければなりません。

協和企画:最後に、今後の肥満症治療の展望についてお聞かせください。

宮崎先生:食事、運動という生活習慣改善による治療しかできない時代が続き、かつては「肥満は自己責任」とされた日本で、最先端の肥満症治療薬が保険適用され、診療現場で使えるようになったことは画期的で驚くべき進歩です。だからこそ、治療薬の不適切使用による健康被害といった「影」の部分が広がらないよう、医療者だけでなく社会全体で十分に注意し、本当に必要な患者さんに薬を届けられる環境を守っていく必要があります。
そして、患者さんが地域のクリニックで適切な医療にアクセスできる体制を整えていくことが、我々の次の大きな課題だと考えています。


文献
1)日本肥満学会. 肥満症診療ガイドライン2022. ライフサイエンス出版, 2022.
2)Muramoto A, et al. Obes Res Clin Pract. 8(5):e466-75, 2014.
3)Ryan DH, et al. Curr Obes Rep. 6(2):187-194, 2017.

宮崎 滋 先生ご略歴
一般社団法人 日本肥満症予防協会 理事長
1971年東京医科歯科大学(現 東京科学大学)医学部卒業。同大学第一内科、都立墨東病院内科、東京逓信病院 内科部長・副院長、新山手病院 生活習慣病センター長を経て、現在に至る。結核予防会理事・ 総合健診推進センター 所長、日本肥満学会 名誉会員、日本糖尿病学会 功労学術評議員

【調査概要】

調査主体 株式会社協和企画
調査手法 インターネット調査(全11問)
調査地域 全国
調査機関 株式会社インテージヘルスケア
調査パネル 株式会社プラメドの登録医師
調査対象 以下の条件に合致する医師
・ 肥満症の診断基準に必要な11疾患*の診療を行っている以下標榜医師
(一般内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病・代謝内分泌内科、腎臓内科、産婦人科、整形外科)
・ 診療所勤務(19床以下)
・ 最近1ヶ月間に、自身が治療を実施した該当疾患の患者が50人以上
・ 日本内分泌学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本肥満学会のいずれの学会にも所属していない
サンプル数 110サンプル
実査期間 2026年4月14日~16日

* 1)耐糖能障害、2)脂質異常症、3)高血圧、4)高尿酸血症・痛風、5)冠動脈疾患:心筋梗塞・狭心症、6)脳梗塞:脳血栓症・一過性脳虚血発作(TIA)、7)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、8)月経異常・不妊、9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)・肥満低換気症候群、10)運動器疾患:変形性関節症(膝・股関節)・変形性脊椎症、手指の変形性関節症、11)肥満関連腎臓病
注)関連学会に所属していないかかりつけ医(上記調査対象参照)

編集後記
本調査は、かかりつけ医における肥満症診療の現状と課題を明らかにすることを目的として実施しました。かかりつけ医は日常診療の中で肥満症に向き合う機会は多いものの、治療介入のあり方にはなお検討の余地があることが示唆されました。かかりつけ医が肥満症治療により積極的に関与することで、一人でも多くの肥満症を持つ方が適切な治療へとつながることを期待しています。
今後も当社は、さまざまな疾患領域における医療課題の可視化に取り組むとともに、ヘルスケア・コミュニケーション・エージェンシーとして、医療者と医療消費者をつなぐ架け橋となるべく努めてまいります。

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